よみもの15

藤居本家の「黒渡」
滋賀の自然と歴史が生んだ逸品

藤居本家

鈴鹿山系からの豊かな清水と自然に恵まれ、古くから水との関わりが深い滋賀県愛知郡愛荘町。その中心に位置し、まるで時を超えて現代に蘇ったかのような古き良き酒造りの姿を今に伝える藤居本家。江戸時代から続く門をくぐると、そこには歴史の重みと自然の恵みが溶け合った、他では味わえない特別な世界が広がっている。

藤居本家の歴史と格式

滋賀県は日本一大きな古代湖「琵琶湖」を抱き、緑豊かな山々と良質な水に恵まれた美しい土地で、古くから米作りが盛んな地域。この自然の恵みを受けて、天保二年(1831年)に創業された藤居本家は、琵琶湖の東に位置する愛荘町で代々続く歴史ある蔵元だ。
登録商標「旭日 キョクジツ」は、「旭日昇天」に因み、勢いが盛んな様子や発展を願う思いが込められている。

育つ稲と藤居本家

藤居本家正面

藤居本家中庭

店舗から見える中庭

店舗2階けやきの大広間(樹齢700年の柱)

取材訪問時に蔵を案内いただいた建物は、国の登録有形文化財に指定されており、15年前まで 酒造りに使われていた蔵。分厚い土壁で覆われ、夏でもこんなに涼しいのかと驚く。ドラマのロケ地としても選ばれることがある程、雰囲気も最高。現在は見学できる場所となり、蔵開きなどのイベント時には飲食スペースとしても解放されている。また、お酒の仕込み水を自由に飲むことができるエリアもあり、多い時には1日に100人以上の見学者が訪れることもある。
蔵の奥には貯蔵庫があり、現在でもお酒を貯蔵されている。とても天井が高く、貯蔵庫を支える4本の大黒柱は、樹齢700年以上の欅の木で、先代自ら設計された芸術的感性に溢れた圧巻の蔵だ。

東蔵入口

東蔵 仕込み蔵

東蔵内部

仕込み水が試飲できるスペース

蔵開きでは飲食スペースとして解放されている。

現在でも使用され、50年モノのお酒が眠っている。

圧巻の欅の柱!

藤居本家は、「新嘗祭(にいなめさい)※」という豊穣を祝う祭りのための特別な御神酒「白酒(しろき)」を全国の主だった神宮・神社に 奉献し、毎年天皇陛下にも献上する栄誉を持っている全国で唯一の蔵だ。戦後、アメリカ軍により白酒の醸造が 廃止される動きがあったが、医師免許を持っていた先代が、アメリカ軍に対してドイツ語で日本文化の継承を強く訴えた結果、想いが叶い、献上が続けられたという秘話が伝えられている。
この伝統と格式に支えられた酒造りを誇りに思い、滋賀県の豊かな自然と歴史が詰まった酒を作り続けている。
※新嘗祭は「しんじょうさい」ともいい、「新」は新穀を「嘗」はお召し上がりいただくことを意味し、収穫された新穀を神に奉り、その恵みに感謝し、国家安泰、国民の繁栄をお祈りしている。

滋賀の自然と共に歩む
~藤居本家の酒造り~

初めて藤居本家を知る方にぜひ伝えたいのは、徹底した地元へのこだわりだ。同蔵では、酒造りに使う酒造好適米は全て滋賀県産を採用。
この「滋賀を大事にする」というポリシーには、明確な理由がある。現在の社長である藤居鐵也氏から始まり、長年かけて築かれた同蔵のブランドを守るためだ。その良さを崩してはいけないという強い思いがあるため、先代からの思いを引き継ぎ、滋賀へのこだわりを貫いている。
例えば、同蔵で販売されている梅酒やイチゴ酒は、原材料の梅やイチゴも滋賀県の農家が作ったものを使用。可能な限り滋賀県産の素材にこだわっているのだ。同蔵の酒造りは、地元の豊かな自然と歴史、さらには滋賀県への愛が詰まっている。

また、同蔵では1種類のお酒を大量に造るのではなく、さまざまな種類のお酒を少量ずつ造るスタイルを追求。そのため、季節商品を含めると商品数は約30種類にもおよぶことがある。社長のご子息である、藤居邦嘉氏いわく、「藤居本家のお酒は、お米の旨みをしっかり感じられ、飲んでいて楽しいと思える味わいをコンセプトに造られている。種類も豊富で、それぞれに個性的な特徴があり、どれか一つは必ずその人の好みに合うお酒が見つけていただきたい」という想いからだそうだ。

店舗の試飲コーナー

東蔵内にある「かくれ蔵藤居」
※ご予約は3日前までです!
詳しくは藤居本家のホームページまで。

「かくれ蔵藤居」の店内

「かくれ蔵藤居」では藤居本家のお酒とこだわりの料理が愉しめる。邦嘉氏がミリ単位で調整して作る日本酒ハイボールも魅力的だ。

滋賀県の濃厚な酒
「旭日 黒渡 滋賀渡船六号 特別純米原酒」

滋賀県のお酒といえば、米の旨味がしっかりと感じられるのが特徴だが、その中でも藤居本家の「旭日 黒渡 滋賀渡船六号 特別純米原酒」、通称「黒渡」が特に人気を集めている。
「黒渡」の特別さは、希少な酒米「滋賀渡船六号」を使用している点にある。この酒米は滋賀県で生まれたもので、酒米の王様と呼ばれる「山田錦」の父系統にあたる在来種「渡船」の一つだ。しかし、昭和30年代には栽培が非常に難しく収穫量も少なかったため、一度栽培が途絶え、長い間幻の酒米とされていた。
「滋賀渡船六号」が復活したのは、平成16年のこと。JAグリーン近江酒米部会が滋賀県の農業試験場に残っていたわずかな籾種を使い、再び栽培に取り組んだ結果、半世紀ぶりに復活を遂げた。この復活劇が「滋賀渡船六号」をより特別な存在にしている。
「滋賀渡船六号」は稲が高く成長し、穂先までの長さが160cmにもなるため、風や雨で倒れやすい。倒れると収穫量が減り、品質も落ちてしまうため、農家にとっては非常に手間がかかり、リスクが高い作物だ。そのため、栽培する農家は限られ、生産量もごく少量にとどまっている。現在では滋賀県内のごく一部の地域でしか栽培されていないため、さらに希少性が高まっている。

(左)酒米渡船の稲と(右)食用米と当主藤居鐵也氏

渡船六号の稲穂

藤居本家の先祖たちは「渡船」で酒造りを行っていた歴史があり、その伝統を受け継いだ現社長の藤居鐵也氏が、約10年前の2014年に「黒渡」を再び作り始めた。「滋賀渡船六号」を使った酒造りは、50年以上のブランクがあり、蔵人たちは初めてこの酒米に触れることになり、米の硬さや水の吸収具合、麹の作り方や溶け方、醪の管理など、多くの面で試行錯誤が続いた。精米歩合や種麹、酵母を変えながら手探りで少しずつ経験を積み、年々、米の旨味やコクを重視した、まさに米の酒と言える飲みごたえのある酒質を目指して作られている。
「黒渡」は、最初から最後までコクがあり、ガツンと力強い荒々しさが魅力のお酒で、藤居本家と言えば「黒渡」と称されるほど、同蔵の代表的な銘柄となっている。また、味の濃い料理との相性が抜群だ。煮込み料理や赤味噌を使った料理など、濃い味付けの料理と合わせると、その真価を発揮するが、逆にあっさりした料理とは味がぶつかってしまうことがあるため、濃い味の料理と一緒に楽しむのがベストだろう。もちろん滋賀県の特産品である鮒ずしとの相性も抜群だ!
ふるさと滋賀の大地と水、農家の努力、蔵人たちの技術、そして蔵の想いを凝縮した「黒渡」を、多くの人に是非飲んでいただきたい!

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