よみもの24

人の和が、
おいしいお酒をつくる。
~蔵とカフェで感じる
田中酒造のやさしい時間~

田中酒造

滋賀県甲賀市。鈴鹿山脈のふもとに、100年以上にわたり酒を醸し続ける蔵があります。
その名は田中酒造。創業は明治44年(1911年)。いまも家族総出で少量仕込みを続ける、ぬくもりあふれる蔵です。

掲げる言葉は「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」――“人の和がよい酒を醸す”という意味。
5代目蔵元の田中重哉さんは、この言葉に出会ったときのことを振り返ります。

「お酒を囲んで笑い合う時間が大好きなんです。だから“和が良酒を醸す”という言葉を知ったとき、まさに自分たちの想いだと思いました。」

春の山に見守られて生まれた銘「春乃峰」

田中酒造の主銘柄は、やさしい響きをもつ「春乃峰(はるのみね)」。
その名には、甲賀の風景と酒造りの季節が重なっています。

田中さん:「当蔵の東には鈴鹿の山々を望みます。その一峰に、春のやわらかな気配が見え始める頃、極寒の仕込みを経た新酒が生まれるんです。そこから“春乃峰”と名付けられました。」

春乃峰を支えているのは、地元・甲賀櫟野(いちの)産の酒造好適米「玉栄(たまさかえ)」。
地元農家と契約栽培し、“鹿深源流米(かふかげんりゅうまい)”と名付けています。

田中さん:「この地より上には何もない。つまり、清らかな源流の地。その米で酒を醸せることが誇りです。」

左:奥様の智子さん 右:5代目蔵元の田中重哉さん

仕込み水は、自社敷地から湧き出る鈴鹿の伏流水(軟水)。
年間わずか四本のタンク仕込みという少量生産で、蔵元自らが杜氏を務め、家族みんなでその味を見守ります。

田中さん:「大きな蔵ではないからこそ、ひとつひとつに心をこめて。手の温もりが伝わるお酒をつくりたいんです。」

仕込みの様子①

仕込みの様子②

“家族と仲間で醸す”ぬくもりの酒づくり

田中酒造の仕込みの日は、まさに「家族総出」。
奥さまをはじめ、地元の消防団仲間が手伝いに来ることもあるそうです。
そんな蔵で生まれた代表作のひとつが、特別純米無濾過生酒「楓葉(かえで)」。
蔵元が自ら立ち上げたブランドであり、挑戦と継承を象徴する一本です。
また、地域の支援を受けながらクラウドファンディングで誕生した純米大吟醸も。
“地域と共に醸す”という想いは、いまも息づいています。

特別純米無濾過生酒「楓葉(かえで)」

奥さまの筆が描く、やさしいラベル

春乃峰の揮毫(きごう)は、蔵元の奥さま・智子さんの手によるもの。
書道を学び、現在は“Tomo工房”として活動。蔵のラベルデザインや祝い酒の制作も手がけています。

智子さん:「お酒の味に合わせて、柔らかくてあたたかい字にしたいと思って書きました。」

人気の「ラベル酒」では、赤ちゃんの命名祝いに、お子さんの名前入りTシャツとラベル酒をセットで贈るサービスも。

智子さん:「お父さんお母さんにはお酒で、赤ちゃんにはTシャツで。家族の笑顔が広がる瞬間がうれしいですね。」

智子さんが書いたラベル達

蔵のもうひとつの顔
「tanacafe(タナカフェ)」

蔵の敷地内には、「tanacafe(タナカフェ)」があります。
創業100周年の節目に建てた建物を活かし、「お酒を飲まない方にも楽しんでもらいたい」と始めたカフェです。
看板メニューは、地元野菜をたっぷり使った蒸籠(せいろ)蒸しランチ。
平日はバーガーなどの軽食メニューもあり、コーヒーは東京の焙煎所から取り寄せたこだわりの豆を使用しています。

田中さん:「蔵の水や麹を使った料理で、田中酒造の味をまるごと感じてもらえたらうれしいです。」

酒粕パンバーガー

週末ランチのせいろ蒸し

せいろ蒸しについているおにぎりは出汁茶漬けにもなって二度美味しいです!

デザートの自家製酒粕入りカヌレも絶品!こだわりのブレンドコーヒーと一緒にどうぞ!

酒粕スイーツでつながる“福祉の輪”

カフェで販売している「ポルポローネ」や「マカロン」は、酒粕を使った人気のお菓子。
製造を担当しているのは、大津市の福祉作業所です。

田中さん:「最初は自分で焼いていたんですが、時間的に難しくなって。福祉施設さんとご縁をいただいて、いまは一緒に作っています。」

お酒から生まれた甘いお菓子が、人の和を広げる新しいかたちになっています。

デザートの酒粕まかろんのパフェも絶品!

未来へ――地域とともに、笑顔を醸す

田中酒造では、女性にも飲みやすいリキュールや、海外に向けた新商品の開発も進行中。
地元・甲賀の特産である朝宮茶など、地域素材を生かした新たな挑戦にも意欲的です。

田中さん:「お酒を通して甲賀の魅力をもっと広げたい。地域と一緒に歩む蔵でありたいと思っています。」

蔵とカフェ、そして人と人。
“おいしいお酒でご縁をつなぐ”という言葉どおり、田中酒造の周りにはいつも笑顔があふれています。

田中さん:「お酒を囲んで笑ってもらえる――それが、いちばんうれしいですね。」

智子さんの描くラベルはほんとに素敵です!

IMASHIGAからのメッセージ

鈴鹿の山々に抱かれ、清らかな水と人の和でお酒を醸す田中酒造さん。
「春乃峰」という名のとおり、その味わいには、春を告げる風のようなやさしさがあります。
口に含むと、やわらかな甘みがふっと広がり、あとには澄んだ余韻が静かに残る――。
それは、雪解けの水のように清く、蔵で働く人たちの笑顔のようにあたたかい一杯。
蔵のカフェで味わう料理やお菓子にも、同じ想いがやさしく息づいています。

“人の和が、良酒を醸す”。
その言葉どおり、田中酒造のお酒には、飲む人をそっとつなぐ不思議な力があります。
静かな夜にひとくち、春乃峰の香りをたのしめば、きっとあなたの心にも、あたたかな風が吹くはずです。

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