よみもの30
和邇のパン屋さんから、全国の食卓へ。
パンとケーキのお店 fuwari が届ける、いつものおいしさ
合同会社 fuwari
琵琶湖の西側、湖と山を身近に感じられる大津市北部の和邇(わに)。JR湖西線和邇駅のほど近くに「パンとケーキのお店 fuwari」はあります。
店内には、食パンやクロワッサン、塩バターロール、クッキーメロンパンなど、毎日の食卓に並べたくなるパンがずらりと並びます。
取材に訪れたのは、平日の午後4時ごろ。
お話を伺っている間にも、2階のイートインスペースからお客さんが降りてきたり、パンを買い求める人が訪れたりと、店内には人の出入りが続いていました。
その様子を見ていると、fuwariが和邇のまちの日常に溶け込み、親しまれていることが伝わってきます。
fuwariが大切にしているのは、素材にこだわり、添加物をなるべく少なくすること。そこには、パンを食べる人への川尻さんの想いがあります。
そんな和邇のまちで親しまれてきたパンが、今、冷凍パンとなって全国へ。
今回は、合同会社fuwariの店主・川尻美智代さんに、毎日のパンづくりから、冷凍パンを始めたきっかけ、そして全国へパンを届ける今の想いまで伺いました。
自分がおいしいと思わなかったら、出さない
「fuwariのパンって、どんなパンですか?」
川尻さんにそう尋ねると、「小さな子どもからお年寄りまで、安心して食べてもらえるパンを、という想いで、一つひとつ作っています。」という答えが返ってきました。
では、その“おいしさ”はどこから生まれているのでしょう。
川尻さんの答えは、とてもシンプルでした。
「私がおいしいと思わなかったら、出さないので」
おいしいかどうかを最後に決めるのは、自分自身の味覚。
けれど、その「おいしい」を毎日同じように作り続けることは、決して簡単ではありません。
パンづくりは、その日の気温や湿度によって仕上がりが変化します。
朝、まず確認するのは粉の温度。暑い日、寒い日、湿気の多い日。その日の状態を見ながら、水分量などを細かく調整していきます。
材料選び、製法、焼き上がり。
一番神経を使うところを尋ねると、材料選びから焼き上がりまで、どの工程にも気を配っているといいます。
毎日同じおいしさを届けるため、その日の状態を見極めながら、一つひとつの工程を丁寧に積み重ねています。
fuwariを知るなら、このパンから
たくさんあるパンの中から、「これを食べたらfuwariがわかる」というパンを川尻さんに選んでもらいました。
名前が挙がったのは、クッキーメロンパン、塩バターロール、クロワッサン、そして食パン。
どれもオープン当初から作り続け、お客さんにも親しまれてきた定番です。
なかでも、初めてfuwariを知る人に「まず食べてほしい」と川尻さんがおすすめしてくれたのが、クッキーメロンパン。
fuwariはパンだけでなく、お菓子も手がけるお店です。その強みを生かし、本格的なクッキー生地とパンを組み合わせています。
ザラメをまとったクッキー生地の中には、やわらかなパン生地。食感の違いも楽しめます。
“パンとケーキのお店”だからこそ生まれた、fuwariらしい一品です。
塩バターロールには発酵バターを包み込み、クロワッサンにもこだわりの発酵バターを使用。
シンプルなパンだからこそ、バターとパンそのものの風味が感じられるように作られています。
「食パンは、焼きたてが一番」ではない?
パン屋さんのパンなら、焼きたてが一番おいしい。
そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
ところが川尻さんに尋ねてみると、意外な答えが返ってきました。
「ものによります。食パンは焼きたてじゃないです」
フランスパンのように焼きたてがおいしいものがある一方で、食パンは翌日の方がおいしいこともあるそう。
パンによって、“一番おいしい瞬間”は違うのです。
この話は、fuwariの冷凍パンを知るうえでも重要でした。
全国へ届けたい。でも、一度は諦めていた
実は川尻さんには以前から、自分たちのパンを全国へ届けたいという想いがありました。
しかし、パンには一つ大きな問題がありました。
軽いけれど、かさばる。
箱が大きくなれば、その分送料も高くなります。
「そこまでしてお金を出して、皆さんが買うかっていうと、ちょっと疑問に」
近くにおいしいパン屋さんがあれば、そこへ買いに行くのが自然なのではないか。
そう考え、一度は全国への発送を断念していました。
転機になったのが、ふるさと納税でした。
声がかかったことで、改めて「パンを遠くへ届ける」ことを考えることに。
ただ送るだけではありません。
どうすれば、おいしく食べてもらえるのか。
そして、わざわざ取り寄せてもらう価値をどう作るのか。
川尻さんが考えた答えの一つが、冷凍と個包装でした。
「食べたいときに、食べたいものだけ」
fuwariの冷凍パンは、一つひとつ個包装されています。
食パンもあらかじめスライス。
一斤すべてを解凍する必要はありません。
朝なら食パンを一枚。
おやつならメロンパンを一つ。
食べたいときに、食べたいものだけ。
冷凍庫から取り出せるようにしています。
これは、川尻さんが「取り寄せてもらう価値」を考える中で大切にした便利さの一つです。
そして冷凍には、パンのおいしさを保つというメリットもあります。
川尻さんによると、
「2、3日たったパンと冷凍パンを比べると、冷凍パンの方がおいしかったりする」のだそうです。
焼いたその日のうちに冷凍しておけば、解凍してトーストしたときに、その日のパンに近い状態で楽しむことができます。
そのため店頭でも、「2、3日置いておいて大丈夫?」と尋ねるお客さんには、早めの冷凍をおすすめしているそうです。
「自分がおいしいと思うもの」だけを冷凍パンに
とはいえ、fuwariのパンなら何でも冷凍商品になるわけではありません。
「冷凍に向いているパンしか出さないです」
例えば、惣菜系のパンなどは冷凍商品のラインナップから外しています。
基準になるのは、冷凍して解凍したあとも、川尻さん自身がおいしいと思えるかどうか。
全国へ届けられるから商品にするのではなく、全国へ届けてもfuwariのおいしさを楽しんでもらえるものだけを選ぶ。
ここでも、最初に聞いた、
「私がおいしいと思わなかったら、出さない」
という川尻さんの考え方は変わりません。
今回届けるセットにも、店頭で長く親しまれている定番や人気のパンが選ばれています。
川尻さんに聞いた、冷凍パンのおいしい食べ方
届いたパンは、どう食べればおいしく楽しめるのでしょう。
基本はとても簡単です。
自然解凍なら、30分ほど。
そして、よりおすすめなのがトースター。
冷凍の状態からトースターに入れ、パンの状態や好みに合わせて2〜3分ほど温めます。
電子レンジはパンが乾燥しやすいため、あまりおすすめしていないそうです。
では、パンを作っている川尻さん自身は、家でどんなふうに食べるのでしょう。
朝は食パンなどのシンプルなパンを、バターで。
昼なら食パンにチーズなどをのせて、アレンジして。
おやつならメロンパンやクロワッサンを、コーヒーと一緒に。
特別な日のためだけではなく、いつもの朝食や昼食、おやつに。
冷凍庫にあるからこそ、その日の気分で「今日はこれ」と選べるのも、冷凍パンの楽しみ方です。
「パン屋をやめても、食パンだけは焼き続けると思う」
取材の最後、川尻さんにこんな質問をしました。
「10年後も残しておきたいパンは?」
答えは、食パンでした。
fuwariの食パンは、川尻さんの義父が作っていた味を受け継いだものです。
義父がパン屋をやめると聞いたとき、
「この食パンを食べられなくなるのは絶対にもったいない」と思い、その技術を教わったといいます。
最初に食べた瞬間、衝撃を受けたというわけではありません。
日々食べ続けるうちに、そのおいしさに気づいていったそうです。
甘すぎず、香ばしい。
ほかの食パンとは風味も食感も違う。
そして気づけば、十数年にわたってほかの食パンをほとんど食べていないほど、川尻さんにとって大切な味になっていました。
だから、なくしたくなかった。
「パン屋をやめたとしても、多分、食パンだけは焼き続けてると思います」
義父から受け継いだ一つの味。
それを川尻さんが守り、和邇のお店で作り続ける。
かつて「なくしたくない」と受け継いだ味は、今度は冷凍パンとなって、次の誰かへとつながっていきます。
和邇から、まだ顔を知らない誰かへ
東京、北海道、九州。
和邇から遠く離れた場所で、これまでfuwariを知らなかった人が、休日の朝にこのパンを食べている。
そんな光景を想像してもらいました。
「直接買いに来れない方が、離れたところで……嬉しい限り」
もともとは、地元の人に愛される店を目指して始まったfuwari。
今では、ふるさと納税を通して全国から感想が届くようになりました。
「おいしいので、またリピートしています」
顔を合わせたことのない人から届くそんな言葉が、川尻さんの励みになっているといいます。
最後に、まだfuwariを知らない全国の方へメッセージをお願いしました。
「全国各地、おいしいパン屋さんいっぱいあると思いますが、うちも一度召し上がってみてください」
滋賀・和邇のまちで、川尻さんが毎日作っているパン。
地元で長く親しまれてきた味が、冷凍パンとなり、今では遠く離れた人のもとへも届くようになりました。
和邇ではいつものパンが、誰かにとっては初めて出会う滋賀の味になる。
そんな新しい出会いが、これから全国へ広がっていきます。